ロングインタビュー

Rimslow Pty.Ltd. 
社長 George Sebek 氏

顔写真



最初に、RIMSLOWについてご紹介いただけますか?

Sebek社長 1987年に会社を設立して、テキスタイル印刷機の製造を始めま した。主にフラットベッドタイプのスクリーン印刷機です。それからテキス タイル用乾燥機などです。初期は、オーストラリア市場だけでしたが、徐々 に輸出も始めました。アジア地域がメインでしたが、日本にも輸出したこと がありますよ。                           

日本にも輸出されたんですか。        

Sebek社長 ええ、名古屋のユーザーに一台売りました。伝統的なテキス タイル印刷が目的でした。多く販売したのは、中国、マレーシア、インドネ シア、フィリピン、タイなどですね。                   数年前ですが、デジタル印刷分野に進出することを決めました。デジタル 印刷技術が、テキスタイル印刷の未来だからです。ここ数年の間に、デジタ ルプリンターの高速化が進んで、テキスタイル業界も関心を高めています。 私たちも、今からスタートをして、印刷の前処理から仕上げ処理までの機器 メーカーとして、良い位置をキープしておきたいと考えました。      環境対応型・輪転式スチーマー スチーマー Steam-X 1850

最初に商品化されたのが、「Steam-X」ですか。 

Sebek社長 はい。スチーマーの一号機を、昨年の10月の展示会で発表し ました。綿やポリエステル、絹などに直接印刷したものを発色・定着させる ための機械です。通せる繊維の幅は最大1830 mmです。簡単なものに、繊維 をロールに巻いてスチーム槽に入れて蓋をするバッチ式のものがありますね。 これは価格は安いのですが、場所によって色むらが出やすいとか、生産性が 上がらないという欠点があります。Steam-Xは、連続送り方式です。装置の 単独使用はもちろん、プリンタにセットして使用することもできます。  

繊維を巻いてセットしたりの作業が無ければ、人件 費が省けますね。当然コストダウンになる。    

Sebek社長 はい。蒸気槽の開閉がありませんから、その分のエネルギー ロスが無いというコストダウンもありますね              

直接印刷だとプリンターに布を送りますよね。左と か右へずれてくることは無いのですか?     

Sebek社長 そのために、繊維のフィーダー部に、横流れ修正機構を付け ています。巻き取ったロール端面もきれいになります。今、引き合いが、ヨ ーロッパからだけでなく、カナダ、アメリカ、アジア市場などから入ってい ます。これまでの販売実績は、36台になりました。ユーザーの要望を取り込 んで、どんどん機械を改良しているので、販売ペースが上がってきています。

受け入れられている大きな理由は何でしょうか? 

Sebek社長 最大の理由は、本格的なインクジェット用のスチーマーの登 場が初めてということでしょう。これだけコンパクトで、高速処理ができて、 なおかつ環境対応システムになっているシステムは私たちのもの以外に知り ません。蒸気は冷却して大部分を回収して再利用する循環方式です。排気も 廃液も、環境に配慮した特別な処理は要らないんですよ。        

機械を見ると本当にコンパクトなんですが、小さい ということは、蒸気槽も小型になるので速度が上がら ない ということではないんですか?      

Sebek社長 私たちのスチーマーは、1台でプリンタ2、3台分の処理が できます。十分に高速な機械です。蒸気槽内の送り方に工夫を凝らしていま して、槽内の繊維の滞留長さが5mあるんです。私たちの機械より大きなシス テムでも、連続送り方式なら従来の小型機種はせいぜい2m程度しかスチーム に当てられないのが普通です。                     アパレル業界でも、実用化が始まった。 他の人と違うものを着たい時代。 アパレル業界向けRIP アパレル業界向けRIP Texprint

同条件なら、御社のシステムは他社より三倍早く送 れるということですか。            

Sebek社長 はい。販売が伸びているもう一つの大きな理由は、デジタル 印刷技術関連商品だからですね。時代が受け入れ始めているんです。デジタ ル印刷なら、欲しい印刷物が即、手に入ります。従来は、そうは行かなかっ た。                                

デジタル印刷なら、デザインから印刷まで直行でき ますね。                   

Sebek社長 そう、フィルムや版が要らないですからね。アパレル業界の 話ですが、繊維の生産量は減っていないけれども、デザイン毎の生産m数が 短くなっています。アメリカのある統計によれば、繊維生産量の60%が、デ ザイン当たりの長さが 300m以下ということです。この程度の長さなら、時間 だけでなく、コスト的にもデジタル印刷が有利になります。スクリーン版を セットして、インクを用意して、機械の位置出しをして、テスト印刷までや る。「さあ、印刷!」となったら300mで終わってしまうんですから。   

やってられませんね。実際の採算はどんなもので すか?                    

Sebek社長 インクジェット印刷なら、販売価格が 平方m当たり US$40に なります。十分すぎる利益が出ています。それとフラッグ(旗)業界も伸びて います。例えばマンチェスターの旗や垂れ幕などは、ほとんどがデジタル印刷 ですね。私たちのスチーマーを使っているカナダの会社が請けています。納期 は早いし、色が鮮やかだと評価されているんですよ。           

スチーマー販売の対象となる市場規模をどの程度に お考えですか?                

Sebek社長 そんなには大きくないかも知れませんが、まだ始まったばか りです。ミマキが何年繊維用プリンタを製造していますか?Tx-1プリンタは、 1時間で4.5平方mと、非常に遅いプリンタでした。これは、サンプリング用に しか使えませんでした。昨年、Tx-2が出ましたね。1時間に27平方m印刷できる んですよ。アパレル業界でも、実用化がいよいよ始まります。       

ほんの数年の間に大きく変わって来ているんですね。

Sebek社長 はい。ハードとソフトの性能アップが、新しい業態を生みま す。何年か前に、デジタル印刷の会合に出かけました。デジタル印刷の未来 の姿です。出力店は、スキャナーを持っています。お客様が来店すると、持 ち込んだ画像をスキャニングして、追加するデザインや好きな繊維を選択で きます。決まったら、印刷して熱処理して、カットや仕上げをします。2, 3日のうちには自分だけのウェアが完成する。一人一人が、他の人と違うも のを着たい時代なんですよ。デジタル印刷の進むべき方向ですね。    

大量生産は従来の印刷機に任せておく。     

Sebek社長 はい。同じ土俵で勝負しては駄目です。これは、明日とか、 一ヵ月後の話ではないですよ。ただ、パソコンを見てください。10年前は、 会社でもそんなに使われていなかった。今はどうですか、個人が一人一人皆 持っている。デジタル印刷も同じような変化が始まろうとしています。プリ ンタは、素晴らしく早いわけじゃない。でも、受け入れられる速さになりま した。これに、効率的なスチーマーでの着色処理ができるんです。オートマ チックカッターも出てきました。今、やりたいことが全部できるようになっ たんです。                              テキスタイル機器設計者、印刷ソフト 技術者がそれぞれ一人いれば十分 シーケンス制御蒸釜 Steam-Xのステータス(PLC 制御)は PC画面で確認できる

3年とか5年後が楽しみですね。        

Sebek社長 私たちは、その時のために今ノウハウの蓄積をしています。 本格的な時代に入った時には、ナンバーワンのポジションにいたい。大きな 企業は、その頃になって参入してくると思います。しかし、私たちは、ずー と先に行っています。                        

人材がそろった本当の大企業が入るには、市場が小 さ過ぎますか。                

Sebek社長  そう思います。今スタートして、2,3年後、私たちはある レベルに行っています。大きな企業が列車に飛び乗って追いつこうとするで しょうが、しかし私たちのはるか後ろに並ぶしかありません。この仕事では、 大きな工場は要りません。それほど沢山の従業員も要りません。一人のテキ スタイル関連機器のハード・ソフト設計者、一人の印刷ソフト技術者、これ らがいれば十分なんです。                      

今現在はライバルはいませんか?        

Sebek社長 今はいませんが、必ず出てくるでしょう。競争は歓迎します よ。私たちだけでないほうがいい。スペースはありますからね。大企業でな く小さなところがでてくるかも知れませんね。しかし、彼らにしても、先ず 宿題をやらなければなりません。コピーもできるでしょうけど、簡単ではな いです。いずれにしても私たちは先に行っていますよ。         

実際に取り組んだ者だけが得る情報がありますから ね。                     

Sebek社長 その情報が、さらに先に導いてくれます。綿とか絹などの繊 維は、にじまないようコーティング前処理が必要です。10月には、このため のコーティング機を展示会に出展します。来年2月には後処理用洗浄機発表 を計画しています。私たちの考えは、「顧客サイドですべて解決できるよう なシステムを供給する」ということです。スチーマーだけでなく、幅広いノ ウハウを蓄積して差を広げて行きます。                 予想したものがどんな風になるか 確認するのがとても楽しみです。 写真 顧客との情報交換を大切に している Sebek社長

少し失礼かも知れませんが、お聞きします。どうし て、御社が先行して先端器機を開発できるのですか? どうしてヨーロッパやアメリカの会社でなく、オー ストラリアのRIMSLOWなんですか?       

Sebek社長 私たちが作ってきたのは、カスタムメイドのスクリーン印刷 ラインです。一品ごとに仕様が違うものに対応してきた。だから新しいもの を作り出す柔軟性があった。私たちは開発会社なんです。そして、95年にア ジアの経済危機が起こりましたね。もう、従来タイプの機械は買ってもらえ なくなりました。私たちには、新しいビジネス分野が必要だったんです。 

開発者は Sebek社長ですか?          

Sebek社長 はい。その通りです。                 

社長ご自身のバックグラウンドを少し教えていただ けますか?                  

Sebek社長 はい。私は、電気工学の学位を持っています。チェコスロバ キア出身です。ヨーロッパからオーストラリアに移って来た後でも勉強しま した。機械設計の経験もあります。ですから機械設計をしている時に、電気 制御の方はどうあるべきか、両者をミックスしてシステムを考えられます。 私の場合は、これがうまく機能しているようです。そして、工場で機械を作 って実際に動かして確認してみる。この経験の積み重ね。私の趣味のような もので、テキスタイル業界での経験が34年になりました。        

仕事を楽しんでいらっしゃるんですね。スチーマー の開発には、化学知識も必要だったのではありませ んか?                   

Sebek社長 いいえ、それは要りません。スチームで染料を定着させるの は古い技術です。必要な温度とか時間は、データ化されています。    

社長のお話しから、「何故、RIMSLOWか?」という 問いの答えが見つかったような気がします。ところ で、技術だけでなく、社長としてはマネジメントの 仕事もありますね?             

Sebek社長 RIMSLOWは、ファミリー企業です。私の息子がマーケティン グと機械製作担当で、娘が経理担当です。妻はもう働いていませんが、会社 のパートナーです。他に三人の社員がいますが、雇い主と使用人という関係 ではありません。ファミリーのようなものですね。お金ははみんなで分けま す。小さな会社なので経営の苦労はありませんよ。マーケティングも、少な くとも現在は競合の無い独占市場ですから、難しいことはありませんね。 

展示会への参加などで、十分な効果が得られのです か。                      

Sebek社長 ヨーロッパで3回、シンガポールで1回。その結果、既に日 本を含めて、ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、世界中の代理店網ができてき ました。                              

開発の一方で、機械の生産も増えているようです。 すこし、社長の仕事が多過ぎるのではありませんか?

Sebek社長 土曜日、時によっては日曜日まで働く日本の人たちと比べた ら、まだ足りない位ですよ(笑)。収益が上がってきていますから、人を募 集中です。増員・訓練の後で、権限を委譲して行きます。        

働くのはお好きですか?           

Sebek社長 好きですね。設計をして、予想したものがどんな風になるか 確認する。とても楽しみです。うまくいって業績が伸びたら、それも満足感 を得られますね。                          

将来の夢は、RIMSLOWを大きくすることですか? 

Sebek社長 いいえ、大きくする方向は目指しません。ここですべての機 械を製造できる訳ではありませんから。ヨーロッパRIMSLOWという会社を既に 設立しました。洗浄機はこの会社で作る計画です。大きな市場がそこにある からです。適したところで適した機械を作って、機能的にもコスト的にも最 高のシステムを提供できるようにしたいですね。私は投資家ではありません から、お金が目的ではありません。作る側だけでなく、世界中のお客様との 間でも、知識やアイディアを共有して行きたい。そうすることで道が開くと 信じています。                           

今日は、お忙しい中、ありがとうございました。 

インタビューを終えて    

 ご子息の話に寄れば、Sebek社長は彼の教育のためにチェコスロバキアから 政治亡命の決断をしたらしい。長男を大学に入れるための条件は、Sebek社長 が社会主義思想を受け入れることだった。社会主義を拒否した氏に残された 道は、政治亡命しかなかった。比較的規制の緩かったルーマニアに旅行した チャンスに、オーストラリアへの脱出を試みて成功した。一家四人の、すべ てを投げ出しての再出発だった。                    今、RIMSLOW Ptyは、スチーマーを発売して世界の最先端に立っている。筆者 は、氏の話を聞くまでは、「何故、オーストラリアなんだ」という大きな疑問 を持っていた。この会社を訪問して、納得が行った。            もともと自信もあったのだろう。チェコは、共産圏の国ではあったが、工業国 として知られていた。そこで、テキスタイル関連機器の設計を19年経験した。 力のあった氏は、それを自由に使う場を渇望していたはずである。代償も大き かったが、オーストラリアで念願の場を得ることができた。移民後のSebek社 長の嬉々とした仕事への打ち込み振りが容易に想像できよう。「忙しすぎるの では?」との質問には、日本人を例に挙げ軽く受け流されてしまった。    カメラを向けるとはにかむように下を向くSebek社長。根っからの技術者のよ うだ。そのSebek社長が語気を強めた部分がある。ライバルとの競争のところだ。 「彼らが参入してくる頃は、ずーと先に行っている」という。次世代機種の構想 が、既に明確になっているに違いない。最先端情報は、先頭を行く企業に集中す る。しばらくは、RIMSLOWから目が離せない。               






Rimslow Pty.Ltd. George Sebek社長 ロングインタビュー
環境対応型・輪転式スチーマー Steam-X 1850特集
株式会社 サンリュウ